読書妄想録
〜墨東公安委員会の電波ゆんゆんパラダイス〜


第1回
アニメ放映記念
『エマ』の車窓から〜『英国鉄道物語』他英国鉄道史関連書籍の巻

○シャーロック・ホームズ方式〜英国紳士のオタク趣味

 それはさておき、このところ筆者が抱いている仮説は、19世紀末の爛熟したヴィクトリア朝社会には、現在の日本人の置かれている状況と類似した面があり、それ故に現在の日本のオタクがヴィクトリア朝の文化を妄想のネタとして消費しているのではないか、という電波な説でありまして、まあ高山宏氏の本ばかり読んでいるとそう考えざるを得なくなってしまうのですが、そこでふと思い出したのが、皆さんお馴染みのシャーロック・ホームズ譚なのです。

 「シャーロキアン」といって、ホームズ譚を愛するあまり、そのパロディ小説を書いたり、作品を精読して矛盾点を探し出して検討したりする人々が世界中に(もちろん日本にも)大勢います。彼らの研究成果をてんこ盛りにした『詳注版シャーロック・ホームズ全集』というものがちくま文庫から出ており(あいにくと筆者は読んだことはありませんが)、何でも本文より注釈の方が多いのだとか。

 しかしこうしたことは、ひところ流行った「謎本」を想起するまでもなく、オタクの行動とそっくりではないかと思うのです。「シャーロキアン」というからもっともらしい紳士の趣味のように思われるだけであって、彼らを「ホームズおたく」と言っても構わないのでは。まあ「ホームズおたく」というと、日本では宮崎アニメのオタクと思われる可能性が高いでしょうけれど、ただ、少なくとも、シャーロキアンと日本のオタクは「カノン」を愛するという点では同じなのであります(シャーロキアンはホームズ譚の原テキストを聖典=カノンと呼ぶ)。

 さて、昨年筆者は松下了平『シャーロック・ホームズの鉄道学』なる本を買い込みました。無論同書の著者松下氏はシャーロキアン、題名通りホームズ譚に出てくる鉄道の話を延々と追求していった本で、ホームズと英国の鉄道、その両方が好きな人(どれだけいるんでしょうね?)はともかく、どっちかだけ、特に鉄道に関心のない人には辛いでしょう。もちろんメイドなんぞ登場しません。「些末な疑問をねちねちと考えていく・・・正直、どうでもいいよ、と思わされた」というアマゾンの書評(注3)は、鉄道趣味者である筆者も正直なところ同意します。

 だからこの本の内容はどうでもいいんですが、筆者は本書からインスパイアを受けてこの企画を考え付いたのです。現今メイド文化の代表的存在である森薫『エマ』を、この手法で読んでみようと。そして目標は、松下氏よりも面白く、鉄道にそれほど関心のないメイドスキーにも読むに堪える文章を作ること。

 大それた目標だって? そんなことはありません。松下氏の著作を一読すれば(いい加減大言壮語が過ぎるので以下自粛)

 ところで「ホームズおたく」はシャーロキアンというもっともらしい称号を名乗っているのですが、『エマ』のマニアックな読者はなんて名乗ればいいんでしょう?・・・「エマニア」とか? それじゃエロゲー販売店みたいだな。(注4)

注3http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4533054854/qid%3D1112437732/249-8109302-8641146
の、福田淑子氏の書評。

注4:T−ZONE系列というから、メイド喫茶ブーム爆発に大きな役割を演じたメイリッシュの関連事業だったそうだ(両店合同イベントもあったようだ)が、2005年3月31日いっぱいで事業をやめた模様である。というわけでこう名乗っても文句を言われることはないだろう。

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