墨耽キ譚
〜森薫『エマ』『シャーリー』を巡る対談〜


第8回
『エマ』第6巻について

(2005.9.16.駒場野公園にて)
墨:第8回墨耽キ譚はとうとう公園での野外プレイと相なりましたが・・・
耽:丁度いまお隣に、どうも大学のテニスサークルと思われる、若くてピチピチした、本当に爽やかなグループがはしゃいでいるんですが、その横でこんなマンガ開いて何やってるんだって(笑)遂に我々も露出プレイの世界に。
墨:爽やかな木陰、蝉時雨の中で、およそ爽やかならざるお話をするわけですが。
耽:だってほら、この表紙からしてねえ、よどよどよど〜んという。
墨:爽やかならざるのは、カバー見返しにオドネル君がうにょっといて、銅像かと一瞬思ってしまうあたり、芸が細かくていいですよねえ。
耽:で、裏表紙はエレノアたんと。でも、こういう風に、表紙と裏、裏表紙って今まで絵変えてたっけ。
墨:うーん、違ってることはあったと思いますけど。
耽:で、またコルセットネタなわけですけど、ダメですよマーサやメルダースの旦那のようにちゃんと足を使って締めないと。ああでも、エレノアは元から腰が細いからいいのか。
墨:うん、元々細いから。まだこれではコルセットも余裕がある感じですね。
耽:で、しかもカバー裏見返しは愛人たんですよ。スープ屋の旦那、もといキャンベル子爵と愛人が。とっかえひっかえ。
墨:冷静に考えると、エレノアとこの旦那と、親子なんだよな。
耽:そうですよ。
墨:うげぇ(笑)
耽:いやあ、でも似てないねえ。
墨:似なくてよかったねえ。
耽:こんな旦那からあんな素直ないい子が育つのかっていう感じも。
墨:それがヴィクトリア朝マジック。
耽:(笑)
  
耽:で、めくると、まあホワイトチャペルは。でも、ちょっと絵の感じ変わったよねえ。
墨:題材によるところが大きいのかもしれないけど。それはともかく、問題は目次ですから。
耽:そう、この目次を見て、どう思われました?
墨:いや、最悪の事態かな、とか(笑)ちょっと、第六幕はやりすぎ・・・
耽:やりすぎだよね。
墨:森さんが、展開について余り考えてなかったというと言い方悪いがですけど。これ月刊だから六ヶ月かかったわけですよね。
耽:そう、前から言ってるけど、これ連載で読まされていたらきつかったと思うなあ。
墨:まあ「さよならエマ」も三回だし、前もあったわけですけどね。だから、初手から結論がもう、目次を見た時点で出てるわけですが。つまり、ストーリーはやはり、
耽:割を食ってるというか。
墨:グダグダというか。ただ、ストーリーに割を食わせただけのことはあるんじゃないかなあと。
耽:まあ、細部の良さについては追々出ますけど。でも、本当にこの人には六幕のドラマなんか仕立てられる程のストーリーテリングはできないと思っているので。この目次を開いた時点で、やってしまったなあとは思いました。
墨:うん。
  
耽:で、話が始まると、「ゼンダ城の虜」なんだけど、この巻からなんか、ヴィヴィーたんが急に幼児化してるんだよね。この絵の幼さもそうだし。何より言動に表れている。
墨:そこは確かに、違和感がありましたね。アーサー君をこういう冷静な役回りにしてしまった結果、やむなく・・・
耽:相対的に幼くなったのもあるのかな。でもやっぱりこれは、前巻のコリンたんでショタ層の票が取り込めると分かった森薫先生はですね、今度はロリキャラがいないことにハタと気付いてですね、
墨:ロリにしちゃ薹立ってるぜ(笑)
耽:いやいや、まだまだ(笑)手近なヴィヴィーたんで間に合わせようとしたんではないかと。
墨:「おうきゅうのいんぼう」・・・平仮名はないだろ、って気はするなあ。最初からそういうキャラならいいんですけど、今迄のイメージがあると、違和感は否めないですね。
耽:そうそう、急に「腕」を平仮名にしたりとかね。
墨:まあ、アーサー君を大人っぽくしたから、ヴィヴィーたんがこうなってしまったという・・・でこう、新婚旅行の話とかは、子供っぽさ炸裂みたいになってしまう。
耽:あと、ミセス・トロロープに縋るヴィヴィーたんか。
墨:でもコリンはずっとコリンだなあと。
耽:うん(笑)でもこの一連のシーンをずっとコリンは見ているんだよね。で、この後にアーサーが「場の勢いでプロポーズしたんだろうに」とか言う時にもいるし、しかもちゃんと汗までかいていると。だからコリンはこの幼さにして、すべての事情を分かってる訳だよね。人格歪むよなあ。
墨:幸せな人生は待ってないんじゃないだろうか。
耽:(笑)
墨:実際年齢的にやばいし。だって、コリンって多分1890年ごろ生まれでしょ、第一次大戦でもろにイープル辺りで屍を晒しそうな。(注1)
耽:でも、ウィリアムが家継がなくて、アーサーもバリスターになるって言ってるから、コリンたんがジョーンズ家を継ぐんですよ。そうすると戦争行かないんじゃない?
墨:いや、当時のイギリス人は「クリスマスまでに戦争は終わる」ってすごく大勢志願してて、若い人もこういう風なドロドロした世界から離れようと思って志願してしまうってことは多いから、コリンも志願してそのままこの世からも離れてしまう危険性が。
耽:(笑)まあまあまあ。
墨:彼の将来を心配してもしょうがないんで、とにかくこの回は、多少無理もあるけど、キャラクターの役割がはっきりしてきてて、このキャラでやるかという問題はあるけど・・・
耽:キャラは立ってきてますね。
墨:面白いと思いますよ。
耽:で、メッセンジャーボーイですね。このあたりショタ色が入ってきてる。段々キャラの幼児化が進んでるんですよ、後でまたやるけど。で、ここで、久しぶりに、本当に久しぶりに、わがエレノアたんがですね(笑)、大ゴマで登場ですよ。慌てる描写もまたいい。結構このコマとか、ヘップバーンが入ってるような気がするんですよね。
墨:ああ、成程。28ページの3コマ目ですね。確かに。そういうところはいいですよね。
耽:エレたんの描写はいくら細かくても構いませんのでね。
墨:まあそろそろ、次行きましょう。
  
耽:で・・・懐中時計を合わせて、ウィリアムが出向いていくと。・・ここでエレノアたんのお着替えシーンですね。
墨:34ページですね。
耽:あとがきの解説を見ても、全くその服のニュアンスが分からないという(笑)
墨:正直あんまり分からない。
耽:我々、駄目駄目の Nerd ファッションですから。
墨:Nerd ですからね。制服なら見て学校の判別は付いても、これは無理だ。女の子の服のタグの「東京スタイル」で、「へー、これがあの村上ファンドに乗っ取られかかった」とか、そういう感心の仕方をしている私にはちょっと、分からないですね。
耽:(笑)・・・実はさりげなく胸の谷間が描かれていたりとかですね・・・オホンオホン。で、一旦婚約を解消するシーン、そして、両パパの間の陰謀があるんだよということを示して、その後の三文オペラ、いやもう、三文もあるのか分からないような芝居に繋げようとしたんではないかと思うんだけど。
墨:(笑)それで裏事情の手紙の話ですね。
耽:「大変行動力のある人物」・・・、ウィリアムの親父はエマを何とかしてくれることを期待していたわけでしょう、この顔は。で、スープ屋の旦那がまたいい顔で、手紙を暖炉にくべるんですよ。
墨:で、ここから急にメルダース家に場面転換して、ここがいいんですよね、やっぱり。メルダース家の皆さん達の描写が精彩で。エマがこう(笑)
耽:カーペット叩きを飛ばす(笑)
墨:飛ぶカーペット叩きのコマが、すごくいい(笑)飛ばすところの絵なんか、はまりすぎてギャグマンガそこのけになってますからね、もう。
耽:(笑)いいよね、「もうキスとかした?」と聞かれて飛ばすんだからね。どこの小学生かって感じ。
墨:まあヴィクトリア朝ですから。
耽:ただ一つだけ言うと、ずっと顔を紅潮させ過ぎかなという気はせんではないけど。
墨:でも本当にこの辺は楽しい感じで、いいんじゃないでしょうか。どのコマでもフリルとレースは手抜きせずに描き込まれてますね。
耽:だってもう、メイドさんよりどりみどりだもん。いろいろ小ネタもあるし。
墨:家政婦のジャラジャラという鍵束の擬音なんかが生きてますし。
耽:アデーレもさりげなく興味があるのを、このまたモンローたんが・・・名前なんだっけ(笑)
墨:モンローでいいよ(笑)
  
墨:で、次の話へ移りまして。
耽:いやはや、また来ましたよ。
墨:奥様また(笑)またもや、豊満なる・・・
耽:香油入りの風呂に入って、バストを二コマに渡って披露ですよ。
墨:他に脱がせるキャラがいないからっていう訳ではないかと。
耽:うん、人妻ですから、別に脱がしても問題ないですからね。・・・ちゃんとお腹の皺も相変わらず、うん。
墨:しかもエマは紅潮しっぱなしだし、それは勿論仕事の暑さだけではないわけで。
耽:うん、奥様もだしその後もみんなひたすらエマに絡んでるから。
墨:メイドさんが何人出てきたんだか。ヨハンナも・・・
耽:「あたしだってまあ、若い頃はちょっとしたもんだったからね」(笑)・・・ちょっとしたヨハンナ、これまたいいんですけど、それはあとがきに回して。で、来ましたよショタが。
墨:64ページですね。
耽:確かに以前、メルダース夫妻がロンドンに行っている時に、靴磨きをさせられるシーンでも少年が出てきたけど、ただあれは明らかに10歳以上でしたが、ここは8・9歳と思われる二人組が出てきて。しかも顔も割と infantile に描いてですね、さっき言ったように、ショタの方に行ってるんではないかという気がしましてですね。
墨:コリンたんで味を占めたのみならず、ご当人が描くのが楽しくなったのかなあという気もしますね。
耽:それで思ったんだけど、多分『エマ』はあと2巻くらいで終わると思うんですが、その後是非、ヴィクトリア時代のキンダーガーデンで一作描くといいのではないかと思うんですが、いかがですかね。
墨:(笑)メイドはもう一通りやったから、という感じでしょうかね。
耽:そう、お子様よりどりみどりですよ。この時代、お子様もすごい華美な服着てるしね。男女問わず。
墨:そういう恰好は所謂アリスっぽいと言うか、メイドっぽいというか、ああいう系ですから・・・またいけますよ。またアニメ化ですよ。今度はゲーム化がいけます。多分ゲーム化いけます。
耽:(笑)落とすんですか!? お子さまを?
墨:あ、お子さまのゲームで思い出したんだけど、全然関係ないんだけどさ、『苺ましまろ』のゲーム、ムックみたいな奴買ってきたらゲームの案内が出てて、あれ、伸恵お姉ちゃんになって女の子を落とすんじゃなくて、幼馴染なる設定の男が勝手に出てきて、ただのギャルゲー設定になってる。これじゃ駄目だよ。
(墨東公安委員会、机を叩く)
耽:え、そうなの? 何も分かってない。
(たんび、両手で机を叩く)
墨:ゲームにするなら、夏休みの間に美羽ちゃんになって、いかに勉強しないで千佳ちゃんの宿題を見るかとか、茉莉ちゃんになって英語を覚えるとか、アナたんになっても英語を覚えるとかですね、そういう課題をクリアするゲームであるべきであってですね、然るになぜこう男などという夾雑物を放り込むのか。
耽:そうそうそうそうそうそう。仮に落とすにしても、伸恵の立場になって、残り四人を落としていく。
墨:そうそうそうそう。で、集中力のパワーが切れたらタバコ吸って回復する、ていう。
耽:そうそう、でバイトは喫茶店・・・
墨:・・・しかし我々って何の話をしてるんですか(笑)
耽:(笑)いやいやいや。(注2)
  
墨:まあ、とにかくまあ、何が言いたかったかというと、それだけこの話は素晴らしいということで。
耽:だからね、後でも言うと思うけど、初読の時にはストーリー追ってたからとんでもないと思ってたけど、読み返してみて細かいところ見ると良いんだよね。
墨:ストーリーと細部は、おそらくバーターの関係になってるんだろうな。それはもう、前々から言ってる話だけど。
耽:で、Sequel ですね。
墨:ええ、まあ39話 Sequel、相変わらずアデーレさんがなかなか。
耽:そうそう、あとおこちゃま二人の描写も非常にいいんですね。それぞれの個性が出てて、こういうところは、何度でも言うけど、さすが・・・。
  
墨:で、いよいよ、えー・・・結局、誘拐という訳なんですが・・・
耽:ねえ・・・
墨:・・・ちょっとねえ、私が前の巻の編集の煽りを見て思ったのは、誘拐ではなくてですね、あの、キャンベル子爵がこう、刺客を送って殺ってしまうんじゃないかと。
耽:まさか(笑)
墨:で、一人だったらバレるから、片っ端からあちこちメイドを殺しまくると。「切り裂きジャック」事件を起こすという、そういうネタを考えたんですね。
耽:(爆笑)
墨:でこう、エマを殺されて、真相を悟ったウィリアムが復讐の鬼と化して、最期、キャンベル家のお屋敷が大炎上して終わるという、一大悲劇っていう展開は、まあ・・・やっぱりないよな、やっぱ。(注3)
耽:(笑)Jack the Ripper 出して、って、そもそもエマを殺すという時点でもうすべてがありえない。主人公ですよ主人公。
墨:あれ、主人公は・・・このマンガ、ウィリアムでしょ?(笑)
耽:いや、エレノアなんじゃないですか?(笑)
墨:(笑)あの、ジャック・ザ・リパーが当時の人を驚かせた理由の一つは人を物のように切り刻んでいるってことですから、ここはもう「フィギュア萌え族(仮)」の先祖ということでご登場を。
耽:(笑)
墨:まあこの話はまた別の機会に、ダイクストラとかもう一遍読み直して、きっちりやりたいとは思ってるんですけど。(注4)ああ、さらに余談なんですが、今、日本経済新聞というですね、押しも押されもせぬ新聞にですね、渡辺淳一というあの作家がですね、『愛の流刑地』なるものを書いているんですが、不倫の挙句首絞めプレイにはまって相手を殺してしまって、その死体を撫でさすって愛でて、死後硬直になって呆然とするというシーンで、既に三週間続いてるんですけど。(注5)
耽:(笑)
墨:渡辺淳一センセイあなた「フィギュア萌え族(仮)」ですか(笑)
耽:あの人ポルノ作家ですから(笑)
墨:昔の作品、医学系のとかを奴読んでると、全然そうじゃなかったんだけど。やっぱ『失楽園』で駄目になったんだかなあ。
耽:そう、本能のままに書きたいポルノを書いても売れることが分かってしまったから。
墨:うん、なんか、津本陽とかにも思うんだけど、日経新聞に新聞連載書いて下手に売れると、作家駄目になるんじゃない?
耽:印税の汁を吸ってしまうと・・・
墨:いや、講演会で食えるからじゃない? とにかく、『愛の流刑地』は酷いんじゃないですか(笑)
耽:同じような死体の事に関してはね、なんと言っても河野多恵子大先生というですね、超大物、文学界に妖しく煌めく巨匠を抜きにしては・・・
墨:河野多恵子と比較してもなあ(笑)
耽:いやでも、『みいら採り猟奇譚』とか垂涎物ですよ。だってさ、太平洋戦争に入った日本でさ、マゾの旦那がうら若い女房を何年かかけてじっくりとサドに仕込んで行ってさ、最期はあれですよ、お馬さんごっこをしていく中で、旦那をペガサスに例えて、で最後の最後は首にかけた手綱を思いっきり引くんですよ、後ろに。
墨:おお。
耽:旦那が生前に女房に告げていた科白がまたふるっている。「自分がお前さまに殺された後の姿を十秒でいいから見たい」と。・・・それは絶対にかなわない夢だけど、女房の方は、一連の行為を通して自分たち夫婦は半ばずつ交じり合っているから、自分が旦那の代わりに遂げた姿を見るのだといって、灯火管制に背いて部屋の明かりを灯そうとしたところで話が終わる。「お許しください、十秒だけ」・・・。これくらい書いてもらわないとダメですね。あれが本当のサディズムなりネクロフィリアなりであって、あれを見て誰もね、「フィギュア萌え」とは言わないわけですよ。
墨:言う筈がないですね。
耽:要はダッチワイフの精巧版というか、意識がないために恣に出来る対象として死体を捉えるなんてナンセンスですよ。死を体験したものとして、あるいは自ら殺したのだというカタルシスを踏まえて愛でるからこそ凄まじいのに。
墨:ま、底が浅いから馬鹿にされるわけですな。
耽:そうそうそうそう。
墨:・・・ま、なんか、話がどこに行ってしまったんでしょう(笑)
耽:(笑)まあまあ、戻しましょう。で、84ページからだけど。
墨:ここのメイドさんたちの描写も、シャンデリアなんかと相俟って、脂が乗っているというか。
耽:私は一瞬、このシャンデリアの掃除で11時に間に合わないという風になってたから、一瞬この、この、この、この超下らなくて安直で、まともな作家が描いたとは思えないようなネタの誘拐作戦はコケるものだと期待したんですよ。
墨:ああ、そこで一捻りすると。確かにそうですね。時間を遅くしたことが生きてないですね。
耽:そう、だって、こんなド安っぽい展開なんて、韓流ドラマをさらに水で薄めたような、流石にこんな安直なネタは思いとどまったんだろうと思ったら、そのまんま誘拐されちゃうという、何じゃそりゃ、っていう。
墨:古典的な人さらいの、背中の籠に入れて曲馬団に売り飛ばす、というノリに近いものを感じますね。・・・で、この Sequel は、
耽:ああ、96ページのエマのいなくなった後の、この超寝呆け顔の、何だっけ。
墨:ターシャ。
耽:ターシャいいね。
墨:で、Sequel に引き続く、ここもいい。
耽:そうそう。・・・「ピン出てる」「ボタン1コ開いてる」「背中」・・・(笑)
  
耽:で、これか。船ですか。
墨:で、あの、早くもこう、船積み状態ですね。リベットで隔壁打ってるから、まあ汽船なんでしょう。
耽:木箱も船荷っぽいしねえ。水面の描写のコマがあるから、多分船なんだろうね。停泊してるのかなあ。
墨:うん、だから停泊してる船の中で書かせてる、という設定なんでしょう。
耽:てか眼鏡はこんな割れ方しねえだろう、と思うんですが。
墨:眼鏡ユーザーの、たんび氏が言われるんですから、そうだと思います。ガラスの角が丸くなっちゃってるのが、ちょっと変ですね、確かに。で、この黒いシーンが・・・
耽:蜿蜒と続くわけですね。
墨:まあ、エマもそこで手紙を書いてしまうということは、彼女自身もウィリアムに迷惑をかけているという心情が、いくらかはあった、ということなんですかね。
耽:殺されると思ったんじゃないの? 私一瞬ここで殺されるかと思ったんですが、駄目でしたかね。
墨:いやあ、ここで殺してそのまま水漬く屍にしちゃったら、うーん、私は彼女自身の葛藤の結果、そういう選択も時としてあり得る、という風に考えたいなあという気がしますが。
耽:で、スープ屋の旦那の話か。「裏門に来た男に渡せ」と。小切手かこれは。
墨:うん、この辺からキャンベル子爵の倣岸な魅力がフルに発揮されて、いいんじゃないでしょうか。
耽:そう、「あれはどこの田舎者ですか?」、でもね、「田舎者」なんて直截な言葉使っちゃいけませんよね。なんせイギリス人なんですからね。
墨:(笑)ま、吹き出しとかで描き分けていて、なかなか良いんでないかと。
耽:で、ピアノ・レッスンですな。
墨:『ピアノ・レッスン』って違うような(笑)
耽:また幼児化したヴィヴィーたんが。「エレノアが会いに来たのは、私でもあなたでもないの」と言うグレイスの顔なんかはなかなかだけど。
墨:今迄それ程出てこなかったお姉さんとか、さっきのアーサー君とかが本巻は活躍してるから、・・・相変わらずコリンはコリン、あれ、でも、今回あんまりコリンは出てこないのか。
耽:ここまではね。で、ここで、遂にエレノアとウィリアムが対峙するわけで・・・。そしてすっかり影が薄くなったミセス・トロロープが淋しげに・・・でも今気付いたんだけどさ、このサンルーム矢鱈緑多いね。持ってきたのかな、やっぱり隠居先から。ほら、明らかに笹っぽいのとかある。
墨:成程、株分けでもしたんでしょうかね。・・・で、Sequel では幼児退行のヴィヴィーたんの魅力が炸裂しておりますが。
耽:アイスクリームですもんね。・・・ひどいなあもう、ちゃんと既に一旦キャラが立っていたのに。確かにあの、階段シャーとかありましたけど、でもあれは、それなりの自我なり年齢なりがある上で、おきゃんにやっているから良かったのであって、ここまで純粋に精神年齢を落とされてしまうとねえ・・・。
  
耽:で、次は噂好きの使用人の皆様が。
墨:メルダース家の描写は、もう見ていて飽きないですね。
耽:使用人たっぷりですからね。
墨:ええ、精細を極めてますし。あとあの、ハンス・アデーレ関係はやはり、『日の名残り』のような淡い恋愛の裡にこう、彼らの人生は流れていくんでしょうか。
耽:そうですね、この133ページの辺り、言葉にはしないけど・・・。そして、「人形の絵文字が書いてあるナゾの手紙が届いて・・・・・・」
墨:ああ、これはシャーロック・ホームズの『踊る人形』ですよね。「推理小説の読み過ぎ」ってあるんだけど、『踊る人形』のストランド誌への発表は1903年なんだよね。でもケリーさんの墓は明らかに没年189・・・まで描いてあるし、『エマ』はヴィクトリア時代の話だったはずなのに、ヴィクトリア時代じゃなくなっちゃうわけで。
耽:うん。
墨:ただ、『踊る人形』の話の設定自体は1898年なんですよ。だから考えようによっては・・・
耽:パラレルワールドですか(笑)
墨:そう、これはホームズのいるパラレルワールドで、行方不明になったエマを探すために、ウィリアムはベーカー街の221Bに駆け込む、そこで日本のオタクどもへのメイドさん普及に功のあった、あのハドソン夫人が出てくるんではないかと。実はホームズはどうでも良くて。
耽:ホームズ・ワトソンは、出てこないんだよね。パイプの先だけとか、ビーカーと試験管だけとかなんだけど、ハドソン夫人はちゃんと名前が出て。
墨:そう、でハドソン夫人に案内されて部屋の中に入った後は、部屋の描写がコマの中に台詞なしで続くとかね。・・・まあ、そういうことを考えてしまう(笑)
耽:(笑)いやでも、ありそうじゃないですか。
墨:そこまでやってくれたら、もう脱帽です(笑)
耽:・・・でドロテア奥様も駆け落ちじゃないと信じてるわけですね。しかしこの奥さんやっぱイタリア人?
墨:あんまドイツっぽくはないね。なんか、黒い髪だし、ラテンな感じがしますね。
耽:であれか、ウィリアムが直接エレノアに婚約解消を告げるシーンか。
墨:いよいよですね。たんび氏としては、エレノアたん大活躍で、山場じゃないですか。
耽:まあね、ここは台詞がいっぱい入っちゃうのもしょうがないしね。遂にこれだけ大きいコマでエレノアたん描かれてるわけですし、個人的にはよよと泣き崩れたりするのかと思いきや、顔を伏せて走り去る辺りも・・・。この巻はそういう意味では買った価値があるかなと思ったんですけどね。でも・・・この後どうするのかというのが、むしろそっちの方が気になりますけどね。・・・で、グレイスに婚約解消を言う所。またここに、コリンがいるんですよ。
墨:大変な人生になりそうだなあ。
耽:であと、「兄様って最低ね」と言い捨てるグレイスの目つき。
墨:お姉さんもキャラクターが立ってますね。
耽:まあ、お姉さんは元から出してきてたからねえ。で、取り残されるコリンの呆然とした顔が・・・(笑)
墨:かわいそうだなあ。引き攣ってる。
耽:かわいそうに・・・で、エマから例の手紙が来るわけですね。
墨: Burnley ですね。ちょっと地図調べたけど、確かにハワースというか、ヨークシャー州の北部から、エマをリヴァプール辺りに運んで積み出すとすれば、中間地点に当たる(注6)のでいいんですが、でもふと思うに、さっきもう既に停泊してる船の中で手紙を書かせてるんで、だったらリヴァプールで投函そのまますればいい訳で、何で内陸のバーンリーまで戻ってたのか、案外運河に浮かんでたのかな。
耽:うん、地図に川が描いてあるから、きっとこの川を下ってるんじゃないかと。
墨:川蒸気ですか、もっと大きい船の感じがしたけど違ったんですね(笑)確かに馬車でごろごろ行くよりいいのかな、まあ「英國」ですから。
  
墨:で、43話ですね。この巻の最終話。
耽:天の岩戸に籠るエレノアたんの描写から始まって・・・
墨:ここでお姉さんを動かす・・・ただ、こうやって兄弟達が、多少今までの感と矛盾があるにせよ動き出した結果、ウィリアムのお母さんとかお父さん、まあお父さんはともかく、お母さんはちょっと影が薄く・・・
耽:そう、次の夕食シーンの「婚約は解消しました」でこうまたヴィヴィーたんが暴れるのは置いておいて、
墨:退行してるよな。
耽:アーサーが冷めてるのもいいでしょう、
墨:アーサー君はこうやって性格がはっきりしてきたからね。
耽:細かい親父とのやり取りはともかく、おふくろさんが全然、役立たないんだよね。酷いよね、見てるだけだし、口挟もうとしてもコメントが言えないで、ただ自分の手を握りしめて・・・
墨:この、163ページの最後のコマの吹き出しが無駄になってるところがまさに、お母さんを生かしきれてないのを象徴してるかのような感じですよね。
耽:うん、典型的な父子の葛藤において母親が無力であるという描写として、そういう文脈で読めば、これは非常によくできた描き方なんだけれども・・・
墨:けれども、今までの描かれ方からすると・・・
耽:今までというか、3、4巻あたりであれだけ奔放かつ自由に生き生きとしていたミセス・トロロープが、こう、5巻の頭であっさり親父寄りに収斂しちゃうという話をしたじゃない。で、ここでは更に、収斂したばかりか完全に旦那の影に入ってしまっていて・・・
墨:・・・まあ、ロンドンの空気吸うとやはりパワーダウンするんですよ。
耽:(笑)駄目なんですか、スモッグが。
墨:肺に悪いんですよ。
耽:やっぱ植物園じゃないと駄目なんですか(笑)
墨:(笑)まあウィルトシャーだかヨークシャーだかに戻ればまた・・・というのは冗談にしても、確かにミセス・トロロープの影の薄さは気になりますね。
耽:言い合う二人の間で、「・・・・・・あの、あなた」「ちょっと・・・・・・ふたりとも・・・・・・」なんてねえ。
墨:確かにそこは・・・
耽:こんなのミセス・トロロープじゃないよ。あの、あの奔放な・・・やっぱマーサがいないから駄目なんですよきっと。
墨:(笑)まあそれはともかく、影に隠れちゃったのは残念だなと。
耽:そう、これじゃ完全にツマだしねえ。そして最後の最後で「母さんを追い出した人たちに・・・・・・」、まあ、この母親がらみの話は、以前の設定が生きてるという評価もできなくもないですが、でもなんだかなあ、という感じするよねえ。
墨:で、その後だけど。
耽:これか、170ページの。
墨:これはいいと・・・
耽:いいのかなあ、でも・・・
墨:この夫婦のやり取りのためにお母さんを出したのは、
耽:出したのは分かるんだけど・・・。言ってもしょうがないかもしれないけど、でもやっぱり、前から何度も言ってる通り、こういうところは台詞で説明しないで欲しいなあ。この170ページの前半の辺りで、「ねえ、あなた」と言った後は、もう二人で手を握ってくれれば良かったような気はするんだよね。
墨:それで充分、分からせてくれる絵を、今まで描いてきてくれてましたからね。
耽:そう、この夫婦にいろいろあったことはもう充分読み取れてるわけだからさ。・・・で、その後が、この巻を締めくくる最後の、この、多分ページが余ったんじゃねえのっていう(笑)
墨:そうねえ・・・でもページ余りにしては、いい感じで描いていますね。
耽:その、読者にとっていろいろ想像の余地があるという点に関しては、しばらく描いてないキャラも含めて、こんな感じになってますから後は皆さん想像してね、というのは、ある意味ユーザーフレンドリーなのかもしれないけど、でも手抜きというか何というか。
墨:まあ、むしろこういう絵のシーンこそが、やはり魅力であって、まして174ページに・・・
耽:びっくりしましたね。我々以前、モニカ姉さまはセンチメンタルジャーニーに行ってるんじゃないかと、
墨:そうそう、八十日間で世界一周したりとかね、セブンイヤーズ・イン・チベットとか勝手なこと言ってましたが。(注7)
耽:言ってましたが、本当に、
墨:本当に行ってるし。・・・ハキムと一緒に行ったのかねえ?
耽:でしょ、だってハキムの弟たちがバックで・・・またモニカお姉さま、このオリエンタルなの似合うんだよね。
墨:彼女は、普通の女性の恰好以外なら、何でも似合いそうな気がする。男装ばっちりでしょ。でもエレノアとお揃いのとか着たらきっと駄目なんだよな。
耽:やっぱヅカなんですよ(笑)でまあ、最後の Sequel、これはまあ、ドロテアと旦那のラブラブぶりは毎度のことながらいいですねえ・・・。
  
耽:で、ちゃんちゃらマンガ、今回だいぶお控えですね。やっぱ本編より面白いと言われるのに腹を据えかねたんですかね。
墨:そうは言っても、私の6巻読んだ感想は「切符台欲しい!」ですから、正直な所。
耽:さっきも言ったけど、このエレノアの服の解説ね。一着目は子供っぽくて三着目は大人っぽい? 分かりませんごめんなさい許してください、そんな人間が評論してるんです(笑)
墨:そして「ちょっとしたヨハンナ」(笑)
耽:「ちょっとしたヨハンナ」ね、もう、ドイツ人は三十超えるとね、ああですからね(笑)。
墨:それではいつまでも豊満な肉体を誇ってらっしゃるドロテア奥様は何者なんで(笑)
耽:いやいやそれはやっぱラテンの魔力、何せマリア・カラスですから。
墨:あと、カーペット叩きについても、さっき僕がギャグだと言ったコマ、あれはカーペット叩きを見せるために飛ばしたんだって位の気合なんでしょうね。
耽:うん、・・・で、例のセンチメンタルジャーニー中のモニカ、確かに「めずらしい動物」だよね(笑)
墨:我々もモニカお姉さまのことが気になってましたが、まあ無事に・・・無事でもないけど(笑)、出てきてよかったですね。
耽:で、漸く「最悪の事態」も終わりだそうですから。
墨:うん、で、あとがきの次のページの件の煽りなんですが、ここでアメリカ行きの船が出ると書いてしまっていいのかね。
耽:さっきの手紙でも「アメリカに行きます」って書かせてたでしょ。行先をそんな律儀に教えるなんてねえ、ウィリアムに追っかけさせるつもりなんですか?・・・そうか、キャンベル子爵は、実はウィリアムごと消してしまいたいんですかね、もしかしたら。
墨:ああ。
耽:この愛人たっぷり生活を続けるために、娘の一人や二人売っ払うんだと思ったんだけど、もしかしたらウィリアムごと・・・
墨:自分のことを馬鹿にされた以上、ウィリアムもろとも消してしまうと。
耽:そうなのかも知れない。とにかく、わざわざ行先を教えてあげるのも変だなあと思って。あと「絶後の第7巻」てねえ・・・
墨:7巻で終わりですか?
耽:終われるんですか?(笑)そして次はキンダーガーデンを。
墨:キンダーガーデン・・・『エマ』ときたら次の題名はなんだろうな。
耽:別にいいんだけどね、エマがキンダーガーデンやってもさ(笑)子守慣れしたウィリアムと二人で。・・・あと、アンケートはがきもですね、上にショタ四人が揃っててですね、
墨:いや、アーサーはショタじゃないでしょう。
耽:いや、ショタも裾野は広いんです(笑)・・・でまあ、新出のメイドさんたちと、スティーヴンスとオドネル君がしっかり。森先生、オドネル君好きなんだろうね、あちこちに潜ませてるから。
墨:次の巻になると「オドネル君を探せ」とかいう企画とかあったりね。絵の隅っこにオドネル君を潜ませて、こそっと。このカバー裏見返しのも結構、「オドネル君を探せ」状態でしたからね。
  
耽:では、全体的な感想に移りますが、本当にショタキャラ多すぎ。ハキム弟といい、使用人のお子さまたちといいですね。
墨:それはそうかもしれないですけど(笑)、あなたはもっと言いたいことがあるでしょ。
耽:・・・いやまあ、私は普通マンガを読むとき、ストーリーを知るためにまず速読でばーっと読んでしまうんですね。それからおもむろに読み返すということをしていたんです、特に『エマ』の場合には。しかし、この6巻に限っては、その初読が終わった時点で、もう、細部を読み直す気力がかけらも起こらずに、憤りのあまり思わず墨東さんに、真夜中だというのに電話をしてしまったという・・・だってその、展開から見たら酷すぎるでしょう。
墨:まあ、ストーリーはまあ・・・
耽:まあね、今までも散々言ってきた通り、どうでもいいとは言いつつも・・・
墨:だから、ストーリーが安直であるからこそ、むしろ5巻と比べても細部の魅力というのは、メルダース家のとか、非常に素晴らしい・・・
耽:対談のために読み返すとね、そういう細部への神はもう一度宿りつつあるんだけども、
墨:宿ってますよね、充分。
耽:うん、でも1巻2巻の辺りはストーリーではなくエピソードレベルで話を纏めて、そして細部にも凝っていたから良かったけど、今度は細部は良くても全体を通したストーリーが、余りにもなってないので・・・ねえ、もう、いきなり別れたと思ったら、いきなりドロテアに拾われて、またいきなり戻ってきて再会したら、今度またいきなり誘拐ですよもう。どうなってるんですかこの・・・本当にあの、NHKの朝ドラのような安っぽい展開は。
墨:さっき韓流を水で薄めたとか言ってましたが、どっちもNHKですな(笑)
耽:(笑)まあそれ位、本当に余りにも酷いと初読の時思ったけど、読み返してみると、描写は細やかだし、エレたん大活躍だし。
墨:だから、ぱっと読まずに、のんびり一話一話読んでいくと、お、いいじゃんいいじゃん、という。
耽:そうか。じゃあ、かえって連載で読むのに向いているのかもね。一作一作、玩弄して愛でるという。
墨:確かにそうかもね。やっぱ今までの経験からいくと、『エマ』はあんま焦って飛ばして読むという読み方は向いていないだろうから、そういうつもりで読むと、むしろ6巻は前巻よりも細部の気合は入っているかな、という気もする。
耽:うーん、確かにね。
墨:相変わらず、地図的な矛盾とかが気になってしまうのは性(さが)ですけど、それはもう、ストーリーとか地理とかは、それはそれでいいのか。
耽:「英國」、ですからね。・・・それこそホームズが出てくるかもしれないんですからもう。
墨:私はホームズ登場、マジで期待してます(笑)いや、ホームズじゃない、ハドソン夫人だな、ハドソン夫人。
耽:(笑)勿論ポワロに出てくるミス・レモン(注8)でもいいけどさあ。ああ、でも時代がもうちょっと後だから駄目か。
墨:いや、ポワロ出すなら方法あるぞ(笑)アメリカじゃなくて、ベルギーにエマを売り飛ばせばいい。確か『売春の社会史』(注9)に書いてあったんだけど、イギリスで女中に雇うと女の子を騙して海外に連れてって売春婦にするっていう話があって、それがベルギーをはじめとする大陸諸国で発見されて保護されるんですよ。ベルギーですよ(笑)エルキュール・ポワロがまだ当時現役でベルギーで刑事やってるはずだから、腕利き警部のポワロが登場するかもしれませんよ。もう、胸が高鳴るばかりですよ(笑)
耽:成程、ブリュッセル辺りに売り飛ばせばいいのか。
墨:で、追いかけたウィリアムの前に、髭が特徴的な頭の丸い小男の警部が出てきて。
耽:髭の先だけとか写るんでしょ、また(笑)
墨:(笑)続きをアニメ化するときには、是非とも声優は、あの熊倉一雄氏を投入(笑)クリスティのアニメがコケたのは、それが原因だからね。みんなもう、あのポワロというとあの人の声が出てくるように、日本人はみんな脳内変換しちゃうから。
耽:NHKやっぱ駄目だ、分かってないよね。(注10)
墨:(笑)まあ結論から行けば、やるんだったらとことん遊んで欲しいということで、もうストーリーはいいから、もう、どんどん・・・
耽:まあ、だから次はアメリカに二人で行くんでしょ? そのまま逃亡するのか連れ戻してくるのかでも話は変わるけど。でも大西洋じゃなあ、仮に難破とかしても無人島とかないしなあ。
墨:うーん・・・世界を一周して、あの、
耽:新婚旅行になっちゃうんですか?
墨:いや、世界を逆のほうから回ってきたハキム&モニカお姉様と、日本あたりで鉢合わせ、ってのも楽しいと思いますけど。
耽:(笑)破茶滅茶だ。
墨:いいんですよもう、ここまで来たら無茶苦茶で。
耽:まあ・・・しかし今回の対談、6巻のストーリー以上にグダグダじゃん(笑)
墨:我々もだいぶ悪乗りしましたな。
耽:悪乗りしましたし、まあ今回は本当に、前巻に引き続き、完結しないと評価のしようがないというかですね。
墨:だから当座の結論は結局今までと同じで、「細部の宝庫ではあるが、しかし、それは無頓着な全体である」(注11)ということで。
耽:にしてもちょっと無頓着さが際立ってるなあと。まあ、どう風呂敷を纏めるのか、てか纏めきれないのか・・・
墨:そして、7巻で終わりなのか、8巻まで続くのか、編集部の次巻の煽りが相変わらずなんで。
耽:うん、多分8巻までやると思うけどね。・・・まあ例によって次巻に期待しつつということで、一旦終わりたいと思います。
墨:はい、どうも有難うございました。
耽:どうもお疲れ様です。
(以下、『エマ』7巻? 評論に続く)

注1:イープルはベルギーの町で、第1次大戦の激戦地。イープル周辺の戦闘は1914年から1917年まで三次にわたった。特に第3次イープル戦(パッシェンデールの戦い)での英軍の損害は大きく、死傷者は30万人を越えた。第1次大戦についての詳細は http://ww1.m78.com/ を参照。

注2:『苺ましまろ』のゲームはPS2であるが、墨東公安委員会もたんび氏もPS2を持っていない。どころか、たんび氏が保有したことのあるコンシューマー機はセガ・マークVだけであり、墨公委の家に存在した任天堂製品に至っては百人一首と麻雀牌だけである(笑)

注3:「切り裂きジャック」は、1888年の8月から11月にかけて、ロンドンのイーストエンドで次々と売春婦を殺害した連続殺人犯。ちなみに、『エマ』第6巻の扉絵のホワイトチャペルこそ、切り裂きジャック「活躍」の舞台である。

注4:ダイクストラに関しては、拙稿「今週の一冊」第99回を参照されたい。

注5:『愛の流刑地』については、以下のサイト http://nikkeiyokyom.ameblo.jp/ のツッコミを参照。

注6:英国西部・ランカシャー州の町。リヴァプールの北東約60キロにあり、そこまでランカシャー&ヨークシャー鉄道が通じる。メルダース家からはおよそ20〜30キロ程度か? メルダース家の位置については、拙稿「地図なき「英國」〜メルダースさん家はどこにある?」をご参照いただければ幸いである。

注7:「墨耽キ譚」第6回参照。

注8:クリスティのポワロものに登場する、ポワロの秘書。秩序を重んじ、感情に流されることなく、究極の書類整理法の開発を夢見る、まさにポワロにうってつけの秘書といえる中年女性。たんび氏ご執心のキャラとか(笑)

注9:バーン&ボニー・ブロー『売春の社会史』ちくま学芸文庫
同書下巻p.257より、
内務省から派遣された調査官トーマス・ウィリアム・スナッグは、ベルギー、フランス、オランダに向けて、イギリスの若い女性の大規模な売買が行われている証拠をつかんだ。おおぜいの娘たちが詐欺にひっかかって大陸に連れてこられ、脅迫されて逃げ出せないでいることもわかった。スプリンガールの手によるレニーアの見事な身辺調査、およびバトラー夫人その他の提出した詳細な証拠に基づき、法廷はレニーアとその息子、警察内部の共謀者、それにブリュッセルの娼家の経営者一一人を有罪とした。

注10:もちろん、対談者両名とも、本邦テレビ局中もっともNHKを愛しております(一部ドラマを除く)。

注11:「墨耽キ譚」第1回参照。この言葉はヘンリー・ジェイムズがジョージ・エリオットの『ミドルマーチ』を評した言葉であるが、また同時に森薫『エマ』にもあてはまる。さらに言えば、『苺ましまろ』に至っては臆面もなくそれに徹しているわけで、そもそもオタク文化自体がかかる傾向を持っているのだろう。そこにこそ、メイドブームの真の原因があるように、筆者(墨東公安委員会)には思われてならない。


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